横浜大桟橋の海上保安庁

 2010年5月最後の週末(29、30日)は横浜みなとみらいで学会がありましたが、艦船マニアとしては例によって付近をブラブラ歩き回らずにいられなかったところ(笑)、白い船体に青い斜めのストライプが入ったスマートな船が横浜港の大桟橋あたりを埋めつくしている、船腹にはやはり青い文字で“Japan Coast Guard”と書かれている、ああ、そうか、今日は海上保安庁の観閲式なんだなと、すぐにピンときました。

 Coast Guardは文字通りには沿岸警備隊ですが、日本では海上保安庁と呼ばれる水上警察(消防も含む)のことで、陸上の警察である警視庁とは別の組織ですし、もちろん海軍に相当する海上自衛隊とも違います。
 最近では伊藤英明さん、加藤あいさん主演の映画『海猿』と言った方が判りやすいと思います。とても面白い良い映画でした。

 海上保安庁(海保)は、1948年(昭和23年)に帝國海軍亡き後の日本近海の海上交通、治安維持、海難救助を担当する機関として設立され、後に海上自衛隊となる海上警備隊が分離しました。一方が他方の母体となったにもかかわらず、一時は海上自衛隊と海上保安庁は仲が悪いんじゃないかと思われたこともあり、海自の護衛艦と海保の巡視船で同じ名前のものが何組かありました。
 これじゃ日本近海の不審船などに対する共同作戦(作業)で混乱が起こるのではないかと心配していましたが、最近では意識して艦船名の重複を避けているように見えます。でも海保の消防船の名前“ひりゅう”は、海自が次の潜水艦に命名したいんじゃないでしょうか?海自はこの間、“そうりゅう”という新型潜水艦を作りましたから…(“そうりゅう”の次に何故“ひりゅう”かは判る人にしか判らないかも知れませんね)。

 海上自衛隊の観閲式(観艦式)は東京湾を出て相模湾で行ない、昨年2009年の秋には私も招待して頂きましたが、これに対して海保の観閲式は羽田沖でやります。海保の年間予算は海自の1割から1割5分程度、船は小さいのが多いし武装も貧弱、海自の観艦式みたいに派手にミサイルをぶっ放したりしないけれど、たぶん海上保安官の皆さんはこう思っていると思います:
あっち(海自)は金持ちのボンボンの火遊び、こっち(海保)は毎日命張ってんだ。
自衛官の皆さん、気を悪くなさらないで下さいね、海の男なら(最近は女性もいるけれど)そう思っているだろうな、という話ですから…。警視庁の機動隊も陸上自衛隊には同じようなライバル意識を持ってるでしょうね。

 話は違いますが、人間の体に病原体などが侵入した場合、まずどんな場合でも組織球だとか好中球などという名前を持った炎症細胞が現場へ急行して敵と戦います。いわば人体を守る防衛軍のうち警察や海保に相当する細胞ですね。だから死傷率も高い、傷口が化膿した時にドロッと出てくる膿(うみ)は病原体と刺し違えた好中球の残骸です。
 こういう組織球や好中球だけで手に負えなくなった時に人体防衛の高度な機能を持ったリンパ球が出動してくるのですが、これが自衛隊(軍隊)に相当すると、学生には講義しています。

 海上で何か事が起これば真っ先に出動するのが海保ですから、保安官たちの海自に対するライバル意識と心意気は大きいでしょう。今年の観閲式でも、不審船や密輸船に扮した巡視船にほとんど体当たりせんばかりに接近して制圧する荒っぽい訓練も披露されました。
 また上の写真手前の巡視船は「はかた」といいますが、もう2隻と船隊を組んで、ゲスト参加した海自の護衛艦「たかなみ」(私が昨年乗せて頂いた「まきなみ」の同型艦)の直前をスレスレに横切るという高速機動訓練も行なわれましたが、これなどは海自に対する意地と言っても良いと思います。

 あ、念のために言っておきますが、私は学会で横浜に行っただけですからね。羽田沖までは行っておりません。今月発売の『世界の艦船』誌に海保観閲式のグラビアが載っていたから書いただけですよ(汗)。

          帰らなくっちゃ