東京の水辺

 いや、今年(2015年)の夏も暑いですね。学生さんとか、卒業生の皆さんとか、職場の皆さんとか、ご近所の皆さんとか、海へ山へ、あるいは過ごしやすい海外へ…と楽しい夏休みを過ごしているのを横目に、これまでずっと東京都内に逼塞しております。しかし、まあ、花火大会行ったり、かき氷食べに行ったり、ホテルにお泊まりしたり、ささやかにではありますが夏を満喫していますので、どうぞご心配なく(笑)。

 とはいえ、やはり学生時代は友人たちと北海道へ、九州へ、四国へと豪快に2週間以上の旅行をしていたことを考えると、ちょっと淋しい。と言うわけで、今回は小旅行気分を味わえる真夏の水辺スポットを2ヶ所ほど旅して参りました。

 東京23区内にも都会の喧噪を離れた閑静な川辺があるんですね。まず上の写真は北区王子の音無親水公園、私の自宅から職場の近くを流れる石神井川を辿って行くとJR王子駅のすぐ真下にあります。
 かつて職場まで自転車通勤や徒歩通勤した時に石神井川沿いの道をよく通ることがあり、春のお花見の季節には王子の方まで歩いたこともあって、ここに公園があることは知っていました。ここは昭和30年代の河川改修工事で流路が変更になった後、昭和63年にかつての風情を伝えるために旧流路に沿って整備されたものだそうです。

 JR王子駅の北口改札から徒歩わずか1〜2分、ちょうど関東地方が梅雨明けして猛暑に襲われた日、たまたま王子にいた私はあそこへ行けば涼しそうだと思いついて、改札口を背にして公園へ降りる階段をトントントンと下がって行くと、やはり考えることは皆同じ、すでに何十人もの家族連れや友人連れの人たちが訪れており、川に入って涼を取っていました。私も暑苦しい革靴とソックスを脱いで足首まで水に浸したら、けっこう冷たくて気持ち良かった〜(^_^)v
 何百メートルも離れていない場所を電車が行き交い、バスターミナルもあるというのに、この静けさは何だ。混雑した列車や飛行機で何万円もかけて行楽地に行かなくても、都内にもこんな楽園があるじゃないか…と、負け惜しみを言いながら暫しのんびりした気分になりました(笑)。

 さて都内の水辺の小旅行気分、さらに極めつけは世田谷区の等々力渓谷です。これも東急大井町線の等々力駅の改札口からわずか徒歩数分の場所にあり、公園入口から多摩川の支流である谷沢川に降りて行くと、さすがに都内唯一の渓谷と言われるだけのことはあって、鬱蒼とした木々が生い茂っていて、とても東京23区とは思えないような静かな場所になっています。
 近くには古代人の横穴墳墓群や野毛大塚古墳なども点在していて、古代人もこんな木々の匂いを嗅ぎながら川辺を歩き回っていたんだなと、時空をも越えた小旅行気分が味わえました。

 世田谷区に等々力渓谷というスポットがあることは若い頃から知っていて、やはり23区内の“渓谷”ということでいつかは訪ねてみたいと思っていました。しかも30年ほど前からは、ここからそんなに遠くない病院に週1回非常勤でお手伝いに来るようになっていましたから、そのうちいつか行けると非常に簡単に安易に考えていたことでもありました。

 ところが20歳の頃から知っていた等々力渓谷、旅行好きの私が初めて訪れたのは還暦をとうに過ぎた今年の夏のこと、いろいろ考えさせられることが多かったです。行こうと思えばいつでも行けたはずの等々力渓谷に初めて足を向けるまで、何で40年以上もかかってしまったのか。

 予備校時代の英語のテキストだったと思いますが、次のような例え話が書いてあったのを覚えています。
 ローマ法王だか市長だか(とにかく偉い人)が、1番目の観光客と話をした:
「私はローマに3日間滞在します」
「そうですか、あなたはローマのすべてを見るでしょう」
次に2番目の観光客と話をした:
「私はローマに1ヶ月滞在します」
「そうですか、あなたはローマを半分くらい見るでしょう」
最後に3番目の観光客と話をした:
「私はローマに1年以上滞在します」
「そうですか、残念ながらあなたはローマをほとんど見ずに帰ることになりますね」

 つまり時間があればいつでも見られると思って実行を先延ばししているうちに機会は失せてしまう。時間が限られていれば、それを有効に使おうと思って濃厚な経験をすることができるというわけです。
 私も世田谷区の等々力渓谷などいつでも行けると思っていた、しかしいつか行けるから、行くのは今日でなくてもいいや、今日は他のことをしようと先延ばししていた、その結果、還暦を過ぎてもまだ行けていなかった…。

 まさに人間の心理を言い当てられたような事実でした。「いつかやろう」は「結局やらない」ということ、若い時分は時間が十分あり余っているという錯覚に捉われてましたが、ふと気付いてみれば残り時間もずいぶん目減りしています。今にして思えば、この間やらずに過ごしてきたことの何と多いことよ。最後の瞬間の後悔を少しでも減らしておくために、これからでも頑張ろうと思った私なのでした(笑)。


         帰らなくっちゃ