うぐいすの里
皆さんの故郷には次のような昔話はありませんでしたか。
むかし、ある男が山里を歩いていると、見知らぬ立派な屋敷がある。中へ入ると若い娘が出迎えてくれて、料理などを出して逗留を勧めてくれる。男は喜んで世話になることにするが、ある時、娘がちょっと出かけることになる。娘が男に念を押して言うには、
「私の留守中、この屋敷の中でゆっくりしていても構わないが、あの屋敷にだけは決して入らないで下さいませ。」
初めのうちは娘の言いつけを守っていた男であったが、やがて好奇心にはかなわなくなって禁を犯す男。屋敷の中にはウグイスがいて、ホーホケキョと鳴いて飛び去ると、後には屋敷も娘の姿も消え失せて、男は何もかも元の通りに戻ってしまった。
河合隼雄先生の「見るなの座敷」という論文(「昔話と日本人の心」収録)によると、このテーマの昔話は日本各地に見られるそうですが、西洋の「青ひげ」の物語とは明らかな違いがあるそうです。
西洋の昔話に見られるこのテーマでは、禁じる者は男(父・夫など)で禁を破る者は女や子供、そして禁を破った罰として生命まで奪われかねない恐怖が襲いかかった後で、その女や子供を助ける別の男が出現してハッピーエンドとなることが多いのですが、日本の昔話では、禁じる者は若い女、禁を破るのは男、さらに禁を破った罰としては、せっかく手にしかけた幸福を失うだけで済むのです。そして禁を破られた女の方が却って悲しく消えてしまう。
河合隼雄先生は、このテーマの昔話が、西洋では苦難を乗り越えて自我が自立して男女の結婚に到るモチーフを表わしているのに対して、日本では論理を超越した「無」の物語であると解釈されていたと思います。皆さんは今日の体験を通じて、どのように感じられましたか?
もう決して覗いてはいけませんよ