不思議な博物館
富士五湖のひとつである河口湖の近く、鳴沢村の緑豊かな高原の中に不思議な博物館があります。河口湖自動車博物館と飛行館で、原田信雄さんという方が個人で集められた自動車や飛行機が展示されており、その道のマニアにとっては聖地ともいえる雰囲気が漂っていますね。
原田さんは自動車レーサーとしても活躍されたことがあり、現在は会社経営者でもあるそうですが、巨額の私財を投じてものすごく貴重な自動車や飛行機を多数コレクションされています。
飛行館 | 自動車館 |
この博物館は1年を通じて8月のわずか1ヶ月間しか開館していないのです。まあ、夏休みに行けばいいんですがね(笑)。アクセスもあまり良くなく、富士急の河口湖駅からタクシーで15分くらい、公共の交通機関に頼らざるを得ない身としてはちょっと訪ねにくい。
しかしちょうど8月に河口湖で健診の仕事が終わった折に、思いきって観光タクシーを奮発して行ってみたわけです。そういう機会でもなければ一生訪れることもできなかったでしょうね。
広大な駐車場を囲んで向き合うように飛行館と自動車館が併設されていました。屋根の上に航空自衛隊のジェット戦闘機が飾られている!それだけでもう心はウキウキ…。他にも駐車場のあちこちには輸送機とか、ボンネットバスだとか、旧式の消防車だとか、蒸気機関車なんかも展示してありました。さすがに整備に手が回らないのか、雨風にさらされて塗装がはげてしまっているものも多くて残念でした。
しかし館内の展示物は本当に凄いの一言に尽きます。自動車館は初期の自動車から、スーパーカーとして一世を風靡したランボルギーニ・カウンタックまで、ナチスドイツの高官が使ったという大型ベンツなども含めて何十台も展示してあって圧巻です。日本の大衆車ダットサンのコーナーもありました。
私にとっては飛行館の方もさらに驚きの連続でした。原田さんは戦時中の日本軍の飛行機を次々に復元されており、零式艦上戦闘機4機(うち1機は靖国神社に寄付)、一式陸上攻撃機、隼戦闘機、93式中間練習機(通称赤トンボ)などが展示されていました。真珠湾攻撃など太平洋戦争初期に活躍した零戦21型はあまり他の博物館ではお目にかかれませんが、私もここで初めて実物を目の当たりにしましたね。あと1964年の東京オリンピックで国立競技場上空に五輪を描いたブルーインパルスの機体もありました。
自動車にしろ、飛行機にしろ、これだけの展示を原田信雄さんが個人で整備された、趣味や道楽という面もあるでしょうが、どれだけの手間と資金を投じられたかと思うと気が遠くなるような感じですね。
しかし私が不思議な博物館というのは、ここを訪れた人たちがネット上に書き込む感想がちょっと冷ややかなことです。原田さんの見事なコレクションを2000円程度の入場料(飛行館と自動車館でそれぞれ1000円ずつ)で堪能させて貰いながら、何でもっと素直に感動しないんでしょうか。
誰しもが展示物は素晴らしい、原田さんの功績は立派だと一応は讃えながら、「展示方法に問題があって、自動車を後面や側面から眺められず、博物館としては物足りない」だとか、「スマホや携帯電話での撮影は認めながらカメラでの撮影を許可しないのは時代錯誤」だとか、けっこう言いたい放題の人が多いのですね。SNSなどへの公開禁止なのでマガジンサイトに写真を載せられず、不満を燻らせておられる方もいらっしゃいます。
皆さんそれぞれ一理あると思いますが、個人が大変な労力と資金を投入して集めたコレクションをどのような方法で展示して、どのような制約を設けようと、それは所有者個人の勝手であり、他の何もしなかった人たちがとやかく言う筋合いのものではないはずです。
私も昔このサイトの別の記事で、こういう歴史的な史料を閲覧する権利について書いたことがありました。戦前から戦時中の立場を利用して蒐集しえた日本海軍の艦艇に関する史料を故意に秘匿した疑いのある方がいるということでしたが、原田さんはこれには当たりません。原田さんは世界各地から買い集めた新旧の自動車コレクションも、大変な労力で復元した旧日本軍の航空機も、たった1年に1ヶ月とはいえ、惜しげもなく公開しているのです。
確かに1年のうちせめて半年くらいは開館して欲しいとも思いますけれど、交通不便な地で広大な博物館を開いておく維持費や人件費を考えれば、1ヶ月でも公開してくれてありがたいと思わなければいけません。原田さんは会社経営者とのことですから、当然これらの展示物の蒐集や整備については会社の事業経費に計上しているでしょう。したがって税金は軽減されていると思われますが、それに見合うだけの公共性は果たしているのか、結局はそういう問題になるんだろうと思います。