西新井大師

 平成24年(2012年)の年明け、私は“厄除け”を祈願して東京足立区の西新井大師に行って来ました。私の実家は曹洞宗でしたから、弘法大師はあまり御縁がなかったのですが、年末に学生さんから、先生も60歳なら厄除けした方が良いですよ、と言われて、一念発起したわけです。ご覧のように初詣の人たちが東武鉄道の大師前の駅あたりまで、数百メートルの列を作っていました。

 もう私も還暦を過ぎました。神代の昔から日本列島に生を受けた人々のうち、60年間生きた人間はかなり少なく、1割にもはるかに満たないはずですから、私自身はもう特に自分の人生にこれ以上何も望むことはありません。
 同年配の人間の中には、社長になりたい、会長になりたい、部長になりたい、課長になりたい、学会長になりたい、学部長になりたい、院長や副院長になりたい、○○長になりたい、△△チョウになりたいと、“蝶”になりたい“毛虫”みたいな野心を持つ人も少なくありませんが、私はもう結構です。

 しかしもういつ死んでも良いなどと口を滑らせると、カミさんに怒られますし、最近では一部の学生さんまでマジになって怒ります。そんなわけで、私のことを怒ってくれる人たちをもう少し見守っていくことに致しまして、とりあえず100歳くらいまでは元気で生きようと思いますので、よろしくお願いいたします(笑)。

 ところで近代西洋医学を学んだ者が厄除け如きに縋って笑止千万と思われるかも知れませんが、やはり厄除けには現代医学に通じる古人の知恵みたいなものがあります。
 厄年は満年齢ではなく、数えの年齢です。数えでいくと生まれた時がすでに1歳ですから、私はもう数えの61歳ということになりますが、61歳は本厄の年です。“満”か“数え”かはともかく、この50歳から60歳前後という年齢はいろんなトラブルが多いのは事実で、すでに私の高校時代、大学時代の友人や先輩・後輩たちで大病を患ったり、先に逝ってしまう者が増えてきている。

 この辺で少し身辺を見回して健康に気をつけ、あまり無理をするなよ、というのが61歳の本厄の年なのでしょう。厄年としては他に、男性の25歳、42歳、女性の19歳、33歳、37歳、そして男性ホルモンも女性ホルモンも関係ない人間の4歳、61歳、さらにこれら性ホルモンが活発になり始めてバランスを崩しやすい13歳となりますが、男性の場合は一家を構えたり、社会からの期待が極大になって無理しやすい年齢、女性の場合は結婚、出産、育児、更年期の兆候の年齢が厄年に当たるように思われます。

 だからと言って、厄年に護摩を焚いて炎で清めた御札を貰って、医学的に何の意味があるかということになりますが、やはり清めて頂いたという気持ちが大事で、気持ちの持ち方ひとつで人間の肉体の防御力が高まることは、すでに医学的に証明されています。
 人間の体内にはNK細胞というリンパ球の仲間の細胞がいますが、これはナチュラル・キラー(天然の殺し屋:Natural Killer)細胞の頭文字で、体内に侵入したウィルスに感染した細胞や、体の中に潜むがん細胞などを手当たり次第に殺してくれる細胞です。気分が良くて高揚しているとNK細胞の活動性が上がり、気分が滅入っているとNK細胞の活動性は下がるらしい。
 歌うのが好きな人はカラオケショップにいるとNK細胞が活発になり、歌えない人を無理やりカラオケに付き合わせるとNK細胞が低調になるという実験データがあります。人間は好きな事を機嫌良くやっていれば、自然に病気から守られるわけですね。

 昔、『相撲取りスッポンポンで風邪引かず』などというコマーシャルがありましたが、褌ひとつの力士が寒空で風邪引かないのも、受験生が風邪を引かないのも、すべてこのNK細胞で解釈できるから面白い。同じように護摩の威力で守られているという信頼感と高揚心があれば、やはり病気から守られる確率は高くなるのです。
 またどこの病院からも見放された末期がんの患者さんが、覚悟を決めて最後に何かポジティブな生き方にチャレンジしているうちに、いつの間にかがんが消えていたなどという信じられないような話を聞くこともあり、かなりの医師は信じていないようですが、私はそういう話の中にはNK細胞の機能回復が末期がんを治した事例も含まれていると思っています。

 それはともかく、皆さまもぜひ健康に気を付けて、神仏の御加護やNK細胞と共にお元気にお過ごし下さい。

        お礼参りに来ます