混声合唱のための組曲「旅」
懐かしい音楽に巡り合いました。混声合唱のための組曲「旅」で、昭和37年度の文部省主催芸術祭合唱部門に参加するため、佐藤眞氏が作曲したものです。
学生時代にコーラスをやっていたとか、職場や地域の合唱団に所属している人たち以外にはあまり馴染みのない曲ですが、田中清光氏と山之井愼氏の素朴な詩に、心に染みるような旋律と和音のついた大変美しい曲で、私も高校時代の昭和44年に歌ったことがあります。この合唱曲が全曲収録されたCDをミュージック・ショップで見つけました。(発売元:
日本伝統文化振興財団、販売元:ビクターエンタテインメント株式会社)
この組曲は全部で7曲より成るのですが、1曲目「旅立つ日」、3曲目「旅のよろこび」、終曲の「行こうふたたび」などは特に印象的でした。ちょっと歌詞を抜き出してみます。
旅立つ日 (田中清光 詩)
行け 旅に いまこそ!
憧れに になわれて
行け 旅に いまこそ!
はてしない山路を行け
草原に草雲雀 ひかりはみなぎり
ああ 湧きあがる よろこびの歌声
行け 旅に いまこそ!
はてしない海辺を行け
山脈に風わたり われをいざなう
ああ 湧きあがる 希望の歌声
行け 旅に いまこそ!
憧れに になわれて
旅のよろこび (山之井愼 詩)
飛んでる飛んでる 飛んでる雲が
みどり山脈 わたって飛ぶぞ
おーい! そよ風にむけ いま叫ぶ
旅のよろこび
はるか青空に いま心ひらく
旅のよろこび ここにいま知る
飛んでる飛んでる 飛んでるかもめ
白いマストをかすめて飛ぶぞ
おーい!汐風にむけ いま叫ぶ
旅のよろこび
かなた黒潮に いま心ひらく
旅のよろこび ここにいま知る
飛んでる飛んでる 飛んでる夢が
はるか夕日にむかって飛ぶぞ
おーい!夕やけにむけ いま叫ぶ
旅のよろこび
はや明日を呼び いま心ひらく
旅のよろこび ここにいま知る
行こう ふたたび (田中清光 詩)
語ろう 美しい旅の日を
想い出は あまくかなしく
はかなくさびしく
心の傷を くりかえし撫でるとも
行こう ふたたび旅立とう
われらのまなかいに 白雲ながれて
われらの心は 希望にもえたつ
ああ 未来は明るく輝き
いまこそ旅をおもう
行こう 美しい旅に
行け 旅に いまこそ!
憧れに になわれて
まあ、曲を聴いたことのない方々にとっては、背中がムズムズするようなセンチメンタルな歌詞でしょうが、これに心に沁みるような旋律と和音がつくと、本当に二度と忘れられないようなフレーズが随所にちりばめられているのです。
大人の世界への出発点だった高校生活の最後の年にこの合唱曲を歌いましたが、中学・高校の頃はクラブ活動の合宿と修学旅行以外に旅行らしい旅行はほとんどしていませんでしたから、「旅」という未知のものに対する憧れをかきたてられたものでした。
そして大学へ進学してから今日まで、ずいぶんいろいろな所を旅してきましたが、この歌詞、この旋律、この和音、いつも心の中で鳴り響いていたことを思い出します。
もう二度と訪れることのできない10歳代の日々への郷愁と書くと、またどうしようもないセンチメンタリズムになってしまいますが、私の旅路もすでに半ばを過ぎた現在、再びこの曲を聴くことができたことを感謝しています。