埋立地にかかる橋(ゲート・ブリッジ)

 東京湾には海面を跨いで幾つもの巨大な橋が架けられていますが、中でも特異な形状をしているのが東京ゲート・ブリッジです。鉄道図鑑などに載っていた鉄橋で子供の頃からお馴染みのトラス橋という工法、三角形を組み合わせた形に鋼材を組み上げた橋桁が特徴で、ゲート・ブリッジでは2頭の恐竜が向かい合っているように見えるため、恐竜橋とも呼ばれているらしい。確かに恐竜に見えなくもないですね(笑)。

 全長2618メートル、海上部分1618メートル、橋梁最上部の高さ87.8メートル、船の上からは何度か眺めたことはあるんですが、実際に近くまで来て、さらにその上に登ってみると、頑丈な鋼材を組み上げた巨大な橋梁は恐ろしいまでの迫力です。レインボー・ブリッジのように吊り橋にできなかったのは、羽田空港を発着する航空機の航路上にあるため、100メートルを越えるような支柱は建てられないからだそうです。ちなみにレインボー・ブリッジの支柱の高さは126メートル、横浜ベイブリッジが172メートルだそうですが、この場所にこれだけの高さの吊り橋を架けるとすれば200メートルくらいの支柱が必要になりますかね。

 技術的なことは私にはよく分かりませんが、この東京ゲート・ブリッジにもレインボー・ブリッジのような歩道があると聞いて、やって来ました(笑)。歩いて海の上を渡るのは楽しいですからね。定年退職するとけっこう気軽に天候に合わせて、好奇心の赴くままに自分の行きたい所へ行ける、まあ、何十年も働いてきたことへのご褒美として楽しませて頂くことにします。

 ただし東京ゲート・ブリッジはちょっとアクセスが不便でした。最寄りの新木場駅(JR京葉線、東京メトロ有楽町線、東京臨海高速鉄道)から都バスが出ているのですが本数が少なく、私は橋のたもとの若洲公園まで1時間ちょっとかけて徒歩で行きました。

 さて橋の昇降口にはエレベーターが設置されていて7階が橋への出入口です。本日天気晴朗なれども波高し(笑)という日で、吹きさらしの橋の上ではかなり風を強く感じました。感想を述べれば「恐い」の一言です。上の写真でご覧になれば分かるとおり、幅3メートルくらいの歩道があるのですが、上半身は手すりの上にほぼ完全に露出する格好になり、下を覗き込むと生命喪失に対する根源的な恐怖に襲われますね。大袈裟でも何でもない、そんじょそこらの二級河川の川面を覗き込むのとはわけが違います。

 レインボー・ブリッジの歩道は完全にフェンスが張られているので身の危険はそれほど感じませんし、お台場や芝浦の陸岸が手に取れるほどの距離に見えるので安心感もあるのですが、東京ゲート・ブリッジでは東京都心のビル街が遙か遠くに望めるだけで、足元は縮緬のように波立つ海面がず〜〜〜〜っと広がっており、今にも吸い込まれそうな感じでした。しかも橋の歩道の最高点の高さは海面から61メートル、私は特に高所恐怖症というわけではないのですが、今この記事を書いている時も、あの情景を思い浮かべるだけで全身がゾワゾワゾワ〜っと総毛立つようです。嘘だと思うならぜひ皆さんもお試し下さい。あの橋の工事に携わった方々の勇気に脱帽ですね(笑)。

 しかしこれほどの高さを誇る東京ゲート・ブリッジですが、橋の下を通過できる船舶の高さは60メートルがギリギリ、横浜ベイ・ブリッジの55メートル、レインボー・ブリッジの52メートルよりは少し背が高いですが、最近のメガシップ(巨大客船)は高さ70メートル以上あったりするので、やはり東京港には入港できない船もあります。仮に東京ゲート・ブリッジをかつての勝どき橋のような跳ね上げ橋にして、どんな巨大客船が来ても通れるようにしたところで、東京晴海の客船ターミナルの手前にはレインボー・ブリッジが立ち塞がっていますから、結局はクルーズ客船の大型化への対応は不可能ということになります。それに1年に何隻も来ないとは言っても、超巨大客船が通るたびに橋を跳ね上げて道路を一時通行止めにするのは、陸上の物流に対する悪影響も無視できないでしょう。

 ところで私は新木場駅から若洲まで徒歩で来たと書きましたが、実はゲート・ブリッジを渡った後、そのまま青海からお台場方面へ歩こうと思っていました。事前に道路地図で確認しただけだったのですが、確かに車両は橋を渡って中央防波堤の外側埋立地を経由して羽田やお台場方面に抜けることができる、しかし歩行者は対岸の中央防波堤に降りることはできないんですね。つまり現在の東京ゲート・ブリッジは歩行者にとっては橋ではなく、海上展望台でしかありません。東京ゲート・ブリッジの地理的な関係は江東区のサイトに出ている航空写真が最も分かりやすいので拝借します。

 最初の写真で分かるように、若洲からゲート・ブリッジに登ると対岸に緑の陸地が見えますが、ここはまだ埋め立てが完了しておらず危険なため、歩行者は中央防波堤側に降りることはできません。そう言えば埋め立て工事の機械みたいな物が並んでいますね。しかしこの中央防波堤付近の埋立地の一部には“海の森公園”という都内でも有数の公園の整備が進んでいるし、外側埋立地の工事も完了すれば、やがて高層マンションや教育施設、娯楽施設、歓楽施設などが建ち並ぶようになり、付近の様子は一変するでしょう。

 ちょっと見ただけでもお台場の数倍の面積を誇る都市空間が新たに誕生するわけですが、この新しい街路が誰のものになるか、現在(2018年)かなり問題になっているようです。

 つまり東京ゲートブリッジで江東区若洲とつながった、臨海トンネルで大田区や品川区ともつながっている、さらに第二航路海底トンネルで港区や中央区へも抜けられるということで、この5つの区が中央防波堤の周囲に新たに誕生する街路の帰属を主張しているらしい。まさに領有権争いですね。将来的にここの住民や事業所から上がる税収入を考えれば当然のことですが、3つの接続ポイントのうち若洲と青海の2つは江東区だし、上記の江東区のサイトでも主張しているように、ゴミの最終処分場として東京湾埋め立て事業の大半を引き受けてきたのは江東区ですから、いずれこの中央防波堤の新しい土地は江東区に帰属するのが当然のように思います。

 いずれにしても中央防波堤側に美しい街路が誕生した時には、今度は歩いて対岸に渡り、さらにそこからお台場や大田区方面へも足を伸ばせるのを楽しみにしています。


         帰らなくっちゃ