レインボー・ブリッジ

 今年(2016年)の5月のゴールデンウィークはお台場の砲台跡を見に行った折に、初めてレインボー・ブリッジを歩いて渡ってみました。1993年に完成したこの巨大な橋は、『踊る大捜査線』という映画の舞台にもなりましたし、『バブルへGO!!タイムマシンはドラム式』という映画では1990年という時代の東京を象徴させるのに建設中のレインボー・ブリッジの画像を使っていたのが印象的だったことは別のページに書きました。

 私はお台場がまだ空き地だらけだった時代以来、さまざまなイベントでお台場を訪れましたが、いつもいつも新橋駅烏丸口から発車している新交通ゆりかもめに乗ってレインボー・ブリッジを渡ったものでした。しかし今回全長約1.7キロのこの橋を自分の脚で渡ってみて、何でもっと早く渡らなかったんだろうと後悔しましたね。

 ここは船の写真撮り放題の絶好のポイントなんです。東京湾クルーズのレストラン・シップや観光船や水上バスの類はひっきりなしに行き交ってますし、時々は晴海埠頭を出入りする大型客船が橋の下を通過することがあります。この連休期間中に私が撮影した船舶の写真のほんの一部をご紹介しましょう。

 上段左は日本クルーズ客船が運航している客船ぱしふぃっくびいなす(26518トン)、上段右はシルバーシーグループが運行する客船シルバー・シャドー(28258トン)、中段はどちらも東京湾クルーズのレストラン・シップで、左は東京ヴァンテアングループのヴァンテアン(1717トン)、右はシンフォニー東京湾クルーズのシンフォニーモデルナ(2618トン)、下段のちょっと古風な外観の船は昔の御座船を模した安宅丸(486トン)で、船内では芝居の興行などもあるそうです。見かけは古いがマスト(帆柱)の上ではちゃんとレーダーも回っていましたよ(笑)。

 そして今回の目玉が下段右の写真、晴海埠頭を出港した商船三井の客船にっぽん丸(22472トン)がレインボー・ブリッジの真下で海上自衛隊の練習艦せとゆき(排水量2950トン)とすれ違うところです。せとゆき以外の船のトン数はいずれも総トン数ですが、排水量と総トン数の違いは別のページを参考にして下さい。

 しかし商船と自衛艦に限らず、まったく管轄の違う艦船同士がすれ違う瞬間をたまたま橋の上から展望できるチャンスに巡り会うというのは本当に僥倖そのものと言うしかありません。どちらかの船舶が橋に差しかかるタイミングが一足早いか遅いかすれば、2隻を同時にカメラに収めるのは不可能になりますし、また全長1.7キロの橋の上から良好なアングルで両船舶を見下ろす位置に立っていなければ平凡な写真になってしまいます。

 私ももうフィルムカメラの時代から何十年も艦船の写真を撮りまくっていますが、こんなショットを撮影できる日が来るなんて想像もしていませんでした。できれば自衛艦の代わりに航海訓練所の練習帆船日本丸だったら言うことなかった〜(笑)。しかしこちらで構図を指定できるわけじゃないんで、こんな写真を撮れただけでも艦船マニア冥利に尽きます。
 ちなみに練習艦せとゆきは1986年に就役した護衛艦でしたが、2012年に練習艦に艦種変更されています。

 ところでレインボーブリッジの橋の上から俯角をつけて見下ろす位置で撮影した艦船の写真は、何でこんなに迫力があるのでしょうか。私がこれまでこのサイトでご紹介してきた艦船の写真を何枚か改めて並べてみます。港に停泊中の船、航行中の護衛艦を含めて、同じ平面上で遠望したようなアングルの写真は、それなりに迫力はあるんですが、やはり上の俯角をつけた写真に比べて何となく物足りない感じがします。
 下の写真で上段左は上の写真と同じぱしふぃっくびいなすですが、やはりちょっと平凡なアングルですね。上段右はフェリーゆうかり、中段左は護衛艦いずも、中段右は客船ダイヤモンドプリンセス、下段はいずれも2012年2009年の相模湾上の海上自衛隊観艦式の写真です。1万トンをはるかに越える商船も、航行中の護衛艦も、上から見下ろすレストランシップの写真が持つ重量感にさえ及ばないのは何故なのか考えてみました。

 私が出した答えは簡単です。俯角をつけて見下ろす艦船の写真は、当然のことですがどれも甲板を見渡せます。このアングルは私たち艦船マニアが子供の頃に完成させた軍艦や帆船のプラモデルを惚れ惚れと飽きずに眺めた視点そのものなんですね。あの頃は完成したプラモデルの船ができるだけ本物みたいに見えるように、なるべく顔を床に近づけて視線を低くして模型を横から水平に見ようとした、そうすると模型の艦船がちょうど岸壁に係留されているかのように、あるいは目の前を航行して行くかのような空想にひたることができたものでした。
 残念ながら視線をプラモデルの位置にまで下げた姿勢を長いこと続けていると疲れてしまうので、すぐに空想の船は元の模型に戻ってしまいましたが、橋の上から見下ろす船舶はこれと逆の関係になります。実際に人が乗って波を蹴立てて航行する本物の艦船が、今度はそれが模型のように手に取れそうに見える、本物が模型なのですから、これ以上の重量感はありません。一生懸命作った模型の艦船が本物になって動いていくような一種の錯覚を感じるのですね。

 艦船マニアにとってレインボーブリッジは1日いても飽きることはありません。航行する船を見下ろせるポイントは首都圏にはそんなに多くありませんから、船好きにとっては貴重なポイントです。

 以前は横浜のベイブリッジにも遊歩道があって、ここならそれこそ10万トンクラスの巨大客船が通過することもたびたびありますから、あれを見下ろしたらさぞかし気持ちが良いだろうと思いますが、何とベイブリッジの遊歩道は興行不振から2010年に営業停止してしまったそうです。確かに横浜のみなとみらい地区や桜木町・伊勢佐木町などからも交通の便が悪かったので仕方ないとは思いますが、やはり残念なことです。

 レインボー・ブリッジの遊歩道はお台場からも、反対側の芝浦からも新交通ゆりかもめをはじめ、臨海線やJR線など鉄道やバスの便も良いので、たぶんベイブリッジの二の舞を踏むことはないでしょう。

 ただ橋の上から艦船を撮影するなら、レンズの口径が大きな一眼レフはお勧めしません。橋の上は事故防止の安全対策で歩道の海側に金網が張られていますから、その隙間からレンズを差し込めるような小型のデジカメが良いですね。あと風が強いし、車道を走るバスやトラックの振動も大きいですから、カメラの手ブレには十分な注意が必要です。

 1日の散策と撮影が終わったら、橋のお台場側から眺める夕陽も美しい。イヤなことは何もかも忘れられそうな気持ちにもなりますが、本当にイヤなことを最後に1つだけ、お台場は海抜が非常に低い土地ですから、万一首都圏が震災に見舞われた時にもしここにいたら、津波から身を守ることを真っ先に考えておくことです。私もいろいろ考えてみましたが、地震発生後、津波襲来までの短時間に逃げられる距離はたかが知れている、それよりはレインボー・ブリッジ上に避難するか、高層マンションに身を寄せさせて貰うか、それが最も安全と思いましたが、専門家の方々のご意見も伺いたいものです。
 ただ確実なのは、毎日毎晩お台場に集う大勢の人々を震災や津波から守るための具体的な対策は、何一つ立てられていないように見えたことですが、これはまたいずれ別の機会に。

         帰らなくっちゃ