相模湾・3年後

 海上自衛隊の観艦式に初めて招待して頂いてから3年が経ちました。あの時は私の学科の1期生がまだ4年生に在学中で、『軍艦に乗りに行く』話でずいぶん盛り上がったものでしたが、その観艦式の直後に私の部屋に遊びに来た3期生たちが今ではもう卒業して、立派な社会人になっています。
 以前に聞いた話で、学校の先生という仕事は、何事につけても教え子の世代と結び付けて考えてしまう因果な商売だそうですが、私もついにそうなってしまったんでしょうか(笑)。

 まあ、それはともかく、海上自衛隊の観艦式は3年に1度挙行されます。以前は毎年行なわれていたそうですが、予算の関係で自衛隊記念日の催し物は陸海空自衛隊が持ち回りとなって、それぞれ3年に1回となったわけです。

 と言うことは…、そうです、また観艦式の年が巡ってきたのです。今年(2012年)の観艦式は10月14日でした。そして今回もまた観艦式の招待券を頂いて、もちろん大喜びで横須賀へ行って参りました。今回乗艦させて頂いたのは艦番号156(DD-156)の護衛艦せとぎりです。
 せとぎりは平成2年に竣工したベテラン護衛艦で、前回乗せて頂いた新鋭艦まきなみに比べると、艦内の塗装などにも年季が感じられましたが、新旧を問わず、軍艦で波を蹴立てて洋上を行くのはやはり良いものです。これが一生の仕事でも悔いは無かった〜(笑)

 上の写真はせとぎりに後続する護衛艦はるゆき(DD-128)とあさゆき(DD-132)で、その後ろに潜水艦も続いており、はるか遠方に掃海母艦ぶんご(MST-464)が回頭中です。前回の時と同様、海上では天候に恵まれない観艦式でしたが、やはり本物の軍艦を洋上でこれだけ間近に見られる滅多にない機会でしたから、もうこの上ない大満足…、せとぎり艦上をウキウキしながら走り回っておりました。

 これがいかにも観艦式らしい写真です。前回まきなみに乗った時は、まきなみは観閲付属部隊の旗艦、つまり軍艦を観閲する立場でしたが、今回のせとぎりは受閲部隊、すなわち観閲を受ける方のフネでした。
 この写真はせとぎりが観閲部隊先導艦のゆうだち(DD-103)とすれ違うところ、乗員の方々は下の甲板に一列に並んで登舷礼を行なっていますが、その一段上のヘリコプター発着甲板には、ご覧のように乗艦者が鈴なりになっています。私も鈴の一つでしたが…(笑)。

 ゆうだちの後ろには自衛隊最高指揮官である野田佳彦首相が乗った護衛艦くらま(DD-144)が続きます。そう言えば前回の観閲官は鳩山由紀夫氏の代理の菅直人氏でした。もう民主党政権下での2度目の観艦式なんですね。中国や韓国との間の領土問題が今にも火を噴きそうな状況ですが、何とかこういう軍艦を使わずに収めて欲しいものです。しかし万一の場合は勝って欲しい。そのための自衛隊です。

 最近の観艦式には海上保安庁の巡視船が1隻参加して、自衛艦に混じって観閲を受けるのが恒例になっていましたが、今回はおそらく尖閣諸島警備で船が足りないのでしょう、予定されていた参加を事前に取り止めました。また横須賀を基地とするアメリカ空母ジョージ・ワシントンも尖閣諸島方面に出動して留守でした。海上自衛隊だけが、これだけ高性能の軍艦を揃えていながら、観艦式でこんなに盛り上がっていて良いのかな。
 でも観艦式後の野田首相の訓示は、本当に万一の場合には交戦状態まで意識した内容になっていました。確かに現在の東アジア情勢は日本にとって楽観を許さないものです。何でもかんでも「戦争反対」と言っていれば済んできたこれまでの日本人が甘かったのかも知れません。

 しかし日本人は今や戦争に勝てる国民ではなくなっていると痛感しました。以下のような次第です。
 今回の観艦式は出港時には薄雲が広がる程度でしたが、洋上に出た頃には天気予報が外れてかなり強い雨が降ってきました。すぐに艦内放送で簡易雨具(ビニールレインコート)配布のお知らせがありましたが、あっと言う間に数が足りなくなってしまったらしい。
 前回の観艦式の時は出港前から雨模様でしたが、乗艦者1人1人にレインコートがあらかじめ配布されましたから、今回も雨天に備えて十分な数の簡易雨具の準備はあったと思われます。つまり乗艦者の中には、こいつは便利な物をタダで貰えるぞ、とばかりに1人で何個も余計に雨具を受け取った不心得者がかなりいたのではないか。
 自分さえ良ければいい、自分たちさえ得すればいい…、戦争という極限状態で使用するフネに乗る機会に恵まれながら、自分のことしか考えないことは恥だということに思い至らない人間が大勢いるということです。そんな国民が戦争に勝てるのか?

 太平洋戦争中も、航空機資材を陸軍が先取りして海軍に回さなかった横暴の話を別のコーナーに書きました。自分さえ良ければいい、限りある資源でさえ自分の部署に独占してしまえばいい、そんな縄張り意識に凝り固まった人間の牛耳る組織が他に勝てるわけはありません。
 他の乗艦者たちが雨に濡れないようにという気配りも出来ない国民ですから、組織の上に立つ人間も同じこと、ウチの大学にもいっぱいいますよ(笑)。そしてそういう組織の総体が日本という国家ですから、いくら装備が優秀で、いくら自衛官の方々が立派でも、この国は戦争になったら勝てるかなあ?

補遺:尖閣紛争に限って言えば、中国人はもっと自分のことしか考えないという人もいるでしょうが、中国人と同じことをして中国人に勝てるはずはありません。国土も資源も人口もあっちの方が大きいのだから…。

         帰らなくっちゃ