病理医ブンブンの仕事場
(帝京大学 病院病理部)

私の仕事場と仲間たちを紹介します。
病院病理部では、内科や外科や産婦人科や泌尿器科や整形外科や皮膚科や、その他いろいろな臨床科で検査や治療のために切除されたり生検されたりした材料から標本を作り、それを顕微鏡で観察して、今後の患者さんの治療に役立てるための病理報告書を作成しています。病理部門のスタッフは、他の科の医師や看護婦さんのように患者さんの前に姿を現すことはありませんが、陰で患者さんのことをいろいろ考えているのです。


帝京大学病院病理部のスタッフです。前列右から2人目が私、その左の立派なヒゲの人が今村教授、その左が辻助手、私の右が島田主任で、中列は右から河野、赤嶺、小島、関の検査技師、最上列の一番偉そうなのが石井です。

では仕事の手順を追って紹介していきましょう。

この箱はホルマリンが入っていて、開けるととっても臭い。手術で切除された胃や腸や子宮なんかが板に張り付けられて保管されています。生体から切り取られた臓器は、そのままにしておくとすぐ腐ってしまいます(変性といいます)が、ホルマリンに漬けておくと腐らずに保存することが出来ます。こうして標本を作るまで大切に保管するわけです。あ、でも高級な松坂牛のお肉が手に入ったからってホルマリンに漬けちゃ駄目ですよ。確かにお肉はいつまでも腐らないけれど、二度と食べられなくなりますから……。



ホルマリンで固定した手術材料です。大腸癌のようですね。病理医はこれをよく観察しながら縦2cm、横4cm、厚さ5mmくらいの大きさに切り分けていきます。これがそのまま左側にある白い箱(カセットと呼んでいます)に詰められて病理標本になるわけですが、どの部分を標本にするのが一番患者さんの治療のために重要かを病理医は判断しなければならず、何年にもわたる修行が必要です。



少し判りにくいですが、病理医が切り分けた標本をミクロン単位の厚さに切っていきます。技師の右手の陰にグレーの器械がありますが、ここに標本を固定して、その表面に鋭利な刃物を滑らすようにして薄切りするのです。この作業をズバリ薄切(はくせつ)と呼んでいます。棚の向こう側で座敷童子のようなものがVサインしてますが、気にせず次に行きましょう。
座敷童子って何?
 



オレンジジュースとグレープジュースではありません。薄切した標本を染める染色液です。標本はほとんど透明なので、何か色素で染めなければ観察することは出来ません。



こうして山のような病理標本が出来あがりました。木の枠一つ一つに入っているのが病理標本(プレパラート)で、赤っぽく見えている部分が患者さんから切除された検体があるところです。



Dr.ブンブンのデスクです。病理の医者としてはよく整頓されています。(同業者の中には足の踏み場も無くなっている人がたくさんいますが……)真ん中に顕微鏡があって、右側にパソコン、左側に報告書を打ち出すプリンターがあります。パソコンは遊ぶために置いてあるのではありません。これで報告書を作成するほか、過去のいろいろな症例を集積して、今後の検討に役立てるためのデータベース作成も行なっているのです。もちろん患者さんのプライバシーや診断情報が外部に洩れないように最大限の保護が行なわれていることは言うまでもありません。
アーサー・ヘイリーの
「最後の診断」という小説をご存知ですか。ある病院の新旧の病理医の対立を中心に起こるさまざまな事故や事件を題材にしています。その中に若い看護学生の骨腫瘍の生検診断が非常に難しくて手術すべきかどうかの決断に行き詰まる場面がありますが、過去の同様な症例と比較するための「クロス・ファイル」がこの病院には無かったのです。これは過去の症例を臓器別・疾患別に並べ直したデータベースのことで、日時を追って患者さんの名前を並べた普通の台帳とは別に作成するべきものなのです。現在ではコンピューターの発達によってこの「クロス・ファイル」が自動的に集積されていく仕組みになっています。



迅速診断をやっているところです。これは現在手術の真っ最中の患者さんの検体を手術室から直ちに持って来てもらって、すぐに標本を作成して手術中の外科医に報告する検査です。普通の病理標本はどんなに急いでも報告まで2日かかりますが、迅速診断では検体を凍結させたり、レンジでチンしたりして特殊な方法で標本を作成するので、標本の出来はイマイチ綺麗ではありませんが、30分以内には報告ができるのです。外科医にとっては、手術中の病変の性質が何か、癌がどこまで広がっているか、などといった情報を、ほぼリアルタイムで知ることが出来ますから、患者さんのためにより良い手術をすることが可能になるわけです。この写真では左側で技師が凍結させた検体を薄切しており、真ん中の技師が直ちに染色を施しています。あ、一番右にはまた座敷童子が……。



ここは細胞診のデスクです。病理部の検査技師の多くは細胞検査士という資格を持っていて、患者さんから得られた細胞診検体の診断に従事しています。細胞診の結果もパソコンに入力されて報告書が作成されます。ところで病理の医者や細胞検査士が顕微鏡で何を見てるか、知りたくありませんか?

知りたい

元へ戻る