江ノ島・空襲警報

 江ノ島電鉄(通称江ノ電)は銚子電鉄と並んで、私が以前から乗りたいと気になっていた鉄道でしたが、どちらも東京から日帰り圏内にあるというのに、共に初乗り体験は最近になってからのことです。
 江ノ電もご覧のとおり単線の鉄道ですが、鎌倉と藤沢を結ぶ途中で湘南の海沿いを走る、それが何ともお洒落で魅力的ですね。鎌倉駅を出て切り通しを抜けると、新田義貞の鎌倉攻めで名高い稲村ヶ崎から七里ヶ浜のあたりから電車はしばらく海岸沿いを走りますが、ここは前方に江ノ島も望めて風光は抜群、まるで電車でGoのゲームでも楽しんでいるかのよう…。

 さて今回はその江ノ島に“空襲警報”が発令されているという噂を確かめるために、江ノ電に乗ったついでに江ノ島で下車してみました。江ノ島は小学生の頃に学校の遠足で訪れたり、親戚に連れられて行ったりした記憶がありますが、それ以来もう50年ぶりになります。時間もそんなに無かったので島までは渡らず、江ノ島大橋の途中で引き返しましたから、あまりにも遠い昔のことを懐かしむ余裕はありませんでした。

 しかし江ノ電の駅から橋のたもとに行き着くまでの間に、もう敵の航空機の攻撃圏内に入ったことはすぐに分かりました。見上げると敵機の群れが上空を乱舞しており、地上にめぼしい攻撃目標を発見すると、サアーッと急降下して襲いかかってきます。
 幸い敵機の攻撃目標になるような物を持っていませんでしたから、直接襲撃されることはありませんでしたが、近くにいた若者グループは敵を挑発するかのようにハンバーガーを食っていてハラハラさせられましたし、少し向こうにいた子供たちは砂浜に置いたリュックサックを攻撃されていました。

 最近、猛禽類の一種で鷹(タカ)の仲間の鳶(トビ、トンビ)が湘南海岸一帯で、人間をナメて弁当や饅頭を奪い取るという暴挙に及んでいるというニュースは本当でした。トビは本来警戒心が強いのであまり人里には近づかないのだそうですが、山の方も宅地化が進んでトビの餌場が荒らされたこと、一部の人間が面白がって餌付けしたか何かでトビが人間を恐れなくなったことなど、さまざまな原因でトビが人間の持っている食物を狙うようになったのでしょう。
 何しろ制空権は向こうにあるので、上空から“鵜の目鷹の目”で食物に狙いをつけられたら、もう地上の人間はコソコソ逃げ回って、食物を隠すか、さっさと食って片付けてしまうしかありません。

 “被害”を受けているのは人間ばかりではないようです。人間の餌を狙って先に縄張りを確保していた烏(カラス)どももまた、この最近の新たな闖入者どもに迷惑しているようで、トビとカラスの空中戦も1回だけ見ました。悠然と滑空して地上を見下ろしている1羽のトビを、数羽のカラスが集団で突っつき回している。
 トビの方が体格も良くて強そうなのですが、カラスはちょっと頭が良さそうなので、そいつらに寄ってたかって絡まれるとトビも
手を焼くみたいです。体を鍛えた体育会系の兄ちゃんに街のチンピラが因縁をつけているようで可笑しかったですが、兄ちゃんを本気で怒らせたら怖いよ、とカラスどもに忠告してやりたい(笑)。




 ところで今、トビが
手を焼くと言いましたが、鳥には手はありませんね。鳥類は進化の過程で手(前肢)を翼に変えて空を飛べるようになったらしいです。
 隕石の衝突で恐竜の大部分が絶滅した後、そのわずかな生き残りが鳥類になったというのが最近の考え方のようですが、その過程で前肢は空に羽ばたく翼になりました。羨ましいですか?人間も翼があれば空を飛べるのに…。

 1970年代、赤い鳥というフォークグループが『翼をください』という歌を歌っており、最近ではサッカーの日本代表チームの応援歌にもなったことがありました。たぶん『キャプテン翼』というサッカー漫画からの連想だと思いますが…。

この大空に翼を広げ
 飛んで行きたいよ
悲しみのない自由な空へ
 翼はためかせ行きたい


などと私も学園祭などで歌いましたが、人間の場合、神様から翼を頂くにしても背中に付けて貰う、ずいぶん身勝手なものです。想像上の天使たちも白い翼は背中に生えていて、手はちゃんと別にある。
 翼と引き換えに前肢(手)の機能を失った鳥たちから見れば、人間どもよ、お前らはそんな立派な手があるのに、そのうえさらに翼まで欲しいのかよ、と文句を言うでしょうね。鳥たちのフォークグループは『手を下さい』という歌を歌っていたりして…。

 恐竜の生き残りたちが前肢を翼に変えて再び地球の支配者になろうと企てていた頃、地上では哺乳類の繁栄が始まっていました。この哺乳類の進化について、しばらく前にNHKが素晴らしい教育番組を制作してくれています。最初の頃の哺乳類は何の武器も無い弱々しい種族でしたが、哺乳類にとってはその弱さこそが現在の繁栄につながる重大な要因だった、鳥は前肢を強力な翼に特殊化させてしまったために、前肢をさまざまな用途に使うことができなくなった、哺乳類は効率的な翼を持たず、空を飛べなくなった代わりに、手で道具を使い、直立して頭脳を発達させることができた…。

 これでもまだ自分の翼で空を飛びたいですか?

          帰らなくっちゃ