男坂・女坂(神田駿河台)

 男坂女坂というのは、登山道だとか高い場所にある神社などの参道によく見られますが、これは神田駿河台の男坂女坂です。JR中央線のお茶の水駅と水道橋駅のちょうど中間あたりの線路の南側、神田駿河台から南西の猿楽町へ向かって、かなり急な崖になっており、明治大学猿楽町校舎のあたりでこの崖を登る石段が男坂、そこからアテネフランセの方へ100メートルほど北西側にあるのが女坂です。

 中学・高校の頃、クラスや部活動のレクリエーションで何度も登った奥武蔵の伊豆ヶ岳の頂上手前にも
、確か男坂女坂がありました。
 
男坂は頂上へ向けて真っ直ぐ登る直登ルートで、ここには“鎖場”といって太い鎖につかまって登らないと足元がちょっと危ない所があり、一方の女坂は頂上へ向かって右手に迂回して登る緩やかな坂道でしたが、私はそっちを行ったことはありません。

 普通は急で苦しい方を“
男坂”、緩やかで楽な方を“女坂”と呼ぶものですが、神田駿河台の場合は、どちらも急な傾斜の石段で、女坂の方は、写真でもわずかに見えますが、途中に踊り場みたいに平らになった場所があるだけです。登り切る労力はあまり変わりませんが、まあ、真ん中で疲れたら休む場所があるから楽…ということでしょうか。

 今回はこの坂の名前にちなんで男と女の話です。(あまり期待しないように…)
辛くて大変な道を“男坂”、緩やかで楽な道を“女坂”、こういう名づけ方はおかしいじゃないかという女権拡張論者の方もいらっしゃるでしょうし、最近の男子はナヨナヨしてて頼りないわという女子の言い分も聞こえないわけじゃありません。
 か弱き女性には楽をさせてあげなければいけないというのは、欧米流のレディファーストの考え方ですが、もちろん彼らの国でもすべての女性たちがこういう女性優遇に甘んじていたわけではなさそうです。1912年に氷山に衝突して沈没した客船タイタニック号で、男性から救命ボートの席を譲られて助かった女性たちに対して、一部の女権拡張論者の非難もありました。男女平等なのだから、男と一緒に死ぬべきだった…という理屈です。

 タイタニック号の話は極端ですが、女には楽な道を行かせてあげようという“女坂”の命名も、欧米流のレディファーストに近いと思います。ところで、いろいろ男女とも言い分はあるでしょうけれど、生物学的に男と女のどちらが大変かと言えば、寅さんではないが、やっぱり“男はつらいよ”なのであります。

 考えてもみて下さい。男の子も女の子もどちらも母親という女の体の中で生まれてくるのです。女の体の中で女の子になるのと、女の体の中で男の子になるのと、どちらが大変か。
 男の胎児は女性ホルモンの海の中で自分自身を男性に作り上げていかなければいけないのに対して、女の胎児は女性ホルモンの海に抱かれて心地よくそれに同化していけばよい。哺乳類の胎児は何の性ホルモンも作用しなければ、すべて自動的に♀の体になるように出来ています。まあ、大自然の摂理です。
 ♂の胎児は、言ってみればこの大自然の摂理に逆らって自分自身を♂にしていくわけです。♀の胎児がノホホ〜ンと♀になっていく間に、♂の胎児は精巣(睾丸)を作り、そこから男性ホルモン(アンドロゲン)を分泌し、反女性ホルモン(抗ミュラー管因子という)を分泌して、せっせと♂の体を作り上げていくのです。

 男は生まれる前からつらいんだよ、と講義すると、大抵のクラスで多くの男子が苦笑いしてますね。でも生まれてから後もつらいかも知れません。現代はやはり女性が強い時代、日本も戦争を放棄したから、昔は最も男性的な職業の代表だった軍人も今では日陰者、子供の喧嘩も先に手を出した方が絶対に悪者にされるから、男の子もおしとやかに育ってしまう。私たちより前の世代の方々にとっては日常茶飯事だったようですが、私たちが小学校の頃も最終的に腕力に訴える喧嘩も無くはなかったです。

 まあ、喧嘩や腕力が男性的かどうか、この辺の見解はいろいろあるでしょうけれど、こういう時代の象徴とも言えるものが家庭用の便器です。以前に何かの雑誌で読んでなるほどと思ったのですが、最近の家庭用の便器、皆さんはどう思われますか。
 昔は家庭にも必ず大小両方の便器があったものです。もちろん“小用”は男性しか使えません。これが女性蔑視だという理屈からか、あるいは単にトイレ用のスペースが狭くなったという理由からか、どちらか知りませんが、ほとんどの家庭で共用便器が1つしか作られないようになりました。これが最近の男の子をいじけさせ、ナヨナヨした性格にしてしまったと雑誌で指摘した人がいたのです。

 昔の男の子はトイレ(などというスマートな名称でなく便所)の窓から、外の空を見上げながら堂々とオシッコしたものです。最近の男の子はどうでしょうか?外にこぼさないように気を遣いながら、うつむいてオドオドと小用を足しているのではないかと心配です。
 そう言えばこんなCMもありました。小学生くらいの男の子がパパと一緒にそのCMのクリーナーで便器を拭いている、「ママに怒られないようにしようね」とか何とか言って頷き合いながら…。可哀そうで情けなくて涙が出ました。

 確かに戦争も無くなったし、暴力に対する批判の目も育ったし、外で立ち小便する下品な男どもの姿も見られなくなったし、昔に比べれば暮らしよい時代になったのかも知れません。しかしこんな育ち方を強要された男の子たちばかりで本当に良いのでしょうか。男坂と女坂を登りながら、ついいろんな事を考えてしまいました。

 ところで神田駿河台の男坂の下あたりに、カミさんが教えている東京音楽大学発祥の地の碑が建っていました。参考までに…(笑)

         帰らなくっちゃ