時刻表

 昔は列車を使って旅に出る時の必需品が“時刻表”でした。携帯用にポケットサイズのものや分冊タイプのものもありましたが、標準的なのはB5サイズ(257mm×182mm)で厚さ約3cm、1150ページくらいの分厚い月刊の雑誌ですね。けっこうかさばって重量もバカにならないのですが、長距離の旅行や学会出張の際は必ず最新号を購入して鞄やリュックに詰めて出かけたものでした。JTB監修のものとJR(昔は国鉄)監修のものと2種類あって、夏休みやゴールデンウィークや年末年始などの旅行シーズン直前になると、大きな書店のトラベルコーナーにはこの分厚い時刻表が何十冊もうずたかく平積みされていましたっけ。

 そう言えば最近は時刻表を買わないなと思って、本棚に眠っていた時刻表を久し振りに手に取ってみたら、何と2006年(平成18年)の7月号ではありませんか。手元には常に最新号を置いておきましたから、もう私でさえ15年以上も列車の発着時刻の検索はインターネットに頼りきっていたわけです。

 近頃ボケが進んできたのは必ずしも加齢による生理的変化ばかりではなさそうです。○○県△△市で開催される学会に行こうと思ったら、昔は必ず分厚い時刻表を引っ張り出して、都内を何時何分発の列車に乗れば目的地には何時何分に着く、もし寝台特急があれば前の晩の何時に東京駅に行けば良いなどと、ページを繰りながら首っ引きで検索したものでした。

 それが今ではスマートフォンで乗り換え案内ソフトにアクセスして、出発駅と目的駅を入力して検索ボタン一発で終わり!一番早く着く列車、一番安く行ける列車、乗り換えが一番楽な列車など、ソフトがお節介なほど細々と提示してくれる。カーナビと一緒で亡国の兆し、いや人類滅亡の徴候と言ってもよいが、それが分かっているつもりの私ですら、もう分厚い時刻表を開く代わりに手軽な乗り換え案内ソフトにアクセスしてしまうんだから、これからの人類文明を担う世代の若い人たちは推して知るべし…ですね。

 駅名入力して検索ボタン一発の乗り換え案内ソフトに比べて、時刻表のページを繰って列車を調べていた頃の作業を思い出してみることにします。やはり時刻表で列車の運行を検索するのは、旅慣れた人とそうでない人では所要時間に数倍以上の差がありました。旅の重要なテクニックの一つと言えたかも知れません。

 まずあの1100ページ以上ある時刻表、広告などを除けば、まず最初に全国の路線地図が見開きで6面分12ページ、九州、中国四国、近畿東海、関東甲信越、東北、北海道の順に掲載されており、次に東京圏、名古屋圏、大阪圏、福岡圏の拡大図が4面、さらに各地域の主要ターミナル駅の構内図が20数駅分、それから季節列車や臨時列車の案内、割引切符などの案内、切符の購入方法などの案内の後に、いよいよ本文とも言える全国の列車時刻表の掲載となります。

 必要な列車の発着時刻をいかに迅速に正確に調べられるかどうかが、時刻表利用者の腕の見せ所です。まず最初の100〜120ページ前後が各新幹線時刻表、新幹線から在来線特急への乗り継ぎ時刻表、さらに特急の時刻表と続きます。2006年の段階ではまだわずかにブルートレインも生き残っていました。

 さてこの後に続く数百ページが全国JR旅客各線の発着時刻をすべて網羅した核心部分ですが、この膨大なページから自分が利用したい列車を探し出せるかどうかが問題です。検索ボタン一発しかやったことない人にはおそらく無理でしょうね。

 自分が列車を利用したい地域が時刻表の中のどの辺に示されているかを知らないと、無駄な時間ばかり食います。列車の運行表は、日本列島の北から順に掲載されているわけではないし、路線名のアイウエオ順でもありません。闇雲にページを開いても関係ない地域の列車ばかり出てくることになります。

 最初に東海道本線・山陽本線から始まって、四国、九州、近畿から北陸、北関東から上信越、東北、北海道という感じで日本列島を回って行きますが、何か法則性がありそうでなさそうなこの順番に慣れていないと、時刻表とは親しく付き合えません。さらに東京や大阪の近郊区間の時刻表の後、全国私鉄、バス、船舶、国内線と国際線の航空機など主要な交通機関も掲載されているので、私も時刻表の“愛読者”だった頃は、家にいながら模擬旅行なども楽しめたものです。

 上野駅を何時発の寝台列車で発ち、翌朝何時に青森着、何時の青函連絡船で北海道へ渡り、そこから札幌へ旭川へ稚内へ…などと旅人の空想は膨らんでいきました。スマホで検索一発ではこうは行きませんね。スマホは人間が怠け者になる以上に、感性や空想力や自由な発想を確実に蝕んでいきます。

 さて私の手元にある2006年7月号の巻末には、まさにこういう時刻表時代の愛読者を対象にしたクイズが出題されていました。現在ならインターネット検索で10分もかからずに正解を見つけられる問題ですが、当時は分厚い時刻表を隅々までめくってやっと答えを見つけることができる、そんな問題です。我こそはと思う人はスマホを閉じて、全国駅名路線地図に挑戦してみて下さい。

JRの駅名は線区の違いによって2通りの読み方があるものがあります。つまり路線が違えば、同じ漢字の駅名表示でも読み方が異なるということ。
例えば三郷は関西本線では「さんごう」、武蔵野線では「みさと」です。
では次の5つの駅名の2通りの読み方と、それぞれの線区を答えて下さい。
1)府中
2)上道
3)長谷
4)中田
5)新野


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