東京タワーよ永遠なれ
先日ちょっと機会があって新宿西口の東京都庁の展望室に登りました。地上45階、202メートルの高さは最近ではそんなに珍しいものではありませんが、ここから見えた思わぬ光景にちょっと悲しくなりました。
上の写真中央遠方に見える赤と白に塗装された塔は、まぎれもない東京タワーです。かつて私たちの世代がまだ若かりし頃、高さ333メートルの東京タワーは周囲の街並みを睥睨するかのように威風堂々と聳えていました。
山手線の西側、原宿から大崎あたりを走る電車の窓から、優美な東京タワーの姿がほとんど遮る物も無く、ずっと一緒についてきたものです。
「これからあそこへ行くんだよ。」
初めて東京タワーでデートしたお嬢さんと山手線の座席に並んで座りながら、そんな会話を交わした日もついこの間のことのようです。
別のページにも書きましたが、東京タワーはその後、時代の変遷と共に都心部を埋めつくした高層ビルの蔭に隠れて目立たなくなってしまいました。この写真はそんな東京タワーの地位の低下を象徴するような1葉ですね。昔なら地面に張りついたような低層建造物の群れの中で、唯一東京タワーだけがシャキッと建ってる光景が写ったことでしょう。皆さんも頭の中で周囲の高いビルを消して、往年の東京タワーの勇姿を想像してみて下さい。
昭和33年、私たちの世代が小学校に入学した年に完成した東京タワーは、私の心の中ではず〜っと東京のシンボルであり続けました。それが今では他の高層ビル群に囲まれて電波を送り出すことができなくなり、新しい東京スカイツリーにその地位を譲りました。
たぶん今の若い世代の人たちの心の中ではスカイツリーが東京のシンボルになることでしょう。私たちの時代は終わりかけている、そんなしんみりした気持ちになる光景でした。
ところが後日、また別の機会があって、東京タワーの後継者であるスカイツリーの展望台に登りました。開業1年半以上を経てもまだ見物の人々が押し寄せて混雑しており、日中の明るい時間帯に登ることはできませんでしたが、夜景の時間帯に登った展望台からは、目の前に広がる東京の灯がまるで宝石箱をひっくり返したような美しさでした。陳腐な表現ですが…(笑)。
ここはもう東京タワーのてっぺんよりもっと高い場所、東京のあらゆる物がすべて足元に広がっています。
高層ビルも低層建造物も夜の闇に溶け込んで、それぞれが放つ照明のきらめきも散らばった宝石の一つに過ぎません。しかしその中にあって東京タワーのイルミネーションだけは東京の夜景から毅然と浮かび上がり、ひときわ美しい光を放っているではありませんか。スカイツリーに比べても、東京タワーのイルミネーションはずっと鮮やかです。
この夜の東京タワーは足元がブルーですが、ちょうどオリンピックのテーマのイルミネーションだったそうです。東京タワー未だ健在なり。東京タワーと共に育ってきた世代にとって、この夜景は頼もしい限りです。
もう怪獣たちも壊しに来ませんが、日本の戦後復興をも象徴した東京タワーは、その本来の役割をスカイツリーに譲った後も、まだまだ将来にわたって凛々しい姿で立ち続けていて欲しいものです。