鉄道立体交差
私の生涯で最も縁の深い西武鉄道の路線図です。地元でない方々には分かりにくくて申し訳ありませんが、画面の右側が都心で、やや上側の池袋から出る黄色いラインが西武池袋線、真ん中の西武新宿から出る水色のラインが西武新宿線。私の生家は西武池袋線で池袋から2駅目の東長崎、中学高校がその隣の江古田、現在の住所がさらに隣の隣の練馬と、いくら生涯最も縁の深い鉄道と言っても、私がこれまで頻繁に利用してきた区間は西武池袋線の都心寄りの数駅に限られていたわけですね。
しかしご覧になれば分かるように、西武鉄道の路線は埼玉県の飯能や川越や秩父、また東京の多摩地区まで複雑に根を張っています。定年後は健診事業でほぼこれら西武線全域に足を延ばすようになりましたが、学生時代や勤務医時代に通勤・通学で西武池袋線の都心部だけ乗車していた頃は、車内に掲げられている全線路線図を眺めながら、西武の奥の方の沿線はどんな場所なんだろうといろいろ想像してみたものでした。
中でも一番興味を引いていたのが、この赤い矢印で示した場所。画面横方向に走る黄色い多摩湖線の八坂〜武蔵大和間と、縦方向に走る緑色の国分寺線の東村山〜小川間で、2つの路線が左下に付けた拡大図のように立体交差で直交しているんですね。ほとんどの方は「だから何なのさ?」と冷笑されるでしょうが、撮り鉄でもある私にとって、ここはどうしても一度は見に行きたい場所の一つとなりました。
定年後は小川や拝島方面の健診にも出かけるようになり、仕事が早めに終わった日などは小川駅からちょっと歩いて多摩湖線と国分寺線の交差を見に行けるようになりました。撮り鉄の神サマ、ありがとう(笑)。
画面右手の東村山駅を出て左手の小川駅へ向かう黄色い国分寺線車両の上を、手前側の八坂駅を出て画面奥の武蔵大和駅へ向かう紺色の多摩湖線車両が横切って行きます。
多摩湖線の線路に沿って遊歩道が作られていて、数キロほど散策すると東京多摩地区有数の景勝地である多摩湖に至ります。私も定年後に何度も足を延ばしましたね。多摩湖の夕景の写真は別の記事で使っています。
上と下の線路をそれぞれの列車が互いに素知らぬ顔ですれ違って行く。当たり前のことですが、平面交差ではこうはうまく行きません。立体交差は地表の同じ座標にいる2つの物体が互いに交わらずに出会い、そして別れて行くというところが面白い。今度は撮り鉄も含めてほとんどすべての方が「だから何なのさ?」と冷笑されたでしょうね(笑)。
互いに交わらぬまま出会い、そして別れる…。こういうすれ違いは、受験数学では双曲線のテーマとして有名ですが(ウソです、私が勝手に名付けただけ・笑)、ドラマでもよく使われますね。2003年から2004年にかけて日本でも放映されて一大ブームを巻き起こした韓流ドラマ『冬のソナタ』は覚えていらっしゃいますか。ペ・ヨンジュン演じるチュンサンと、チェ・ジウ演じるユジンが、互いに惹かれ合いながら会えない、出会ったかと思うと別れてしまう、今度こそ互いに気付くかと思うとまた別れてしまう、そうやって出会っても出会っても別れてしまうもどかしさは立体交差そのもの…(大袈裟か・笑)。私はこの場所を訪れるたびに『冬のソナタ』を思い出しています。
1952年にラジオで放送されたドラマ『君の名は』も同じだったそうですよ。東京大空襲の夜に出会った氏家真知子と後宮春樹は半年後の再会を誓って別れたが、戦後のドサクサの中で会えるかと思うと会えない、次こそ会えるかと思うとまた会えない、そうやって人々の心を掻き乱したために放送時間帯は銭湯の女湯がガラガラになったという伝説のドラマでした。出会いと別れのテーマ、恐るべし…ですね(笑)。
さて立体交差で出会いながら別れて行く黄色と紺色の電車の写真、トリックに気が付きましたか?多摩湖線も国分寺線も単線で、運行本数は大体20分に上り下り1本ずつ。いくら撮り鉄の神サマが味方してくれても、こんなにうまく偶然が重なって、2つの電車が互いに交差するところを撮影できる幸運なんて、滅多に期待できるものではありません。下の黄色い電車の側面に高架のガードレールの日陰ができてますが、これはあり得ない。なぜなら高架の線路には紺色の電車が差しかかっていて日光を遮るはずですから…。
つまりこの写真はカメラを三脚に固定しておいて、上の線路と下の線路を通過する電車を別々に撮影し、後から合成したわけですね。近くの駐輪場の警備員さんが興味深そうに撮り鉄の行為を眺めてニヤニヤしてました。