�I亀余話

　最近（2022年）は新聞を読んでも、テレビで報道番組を見ても、インターネットを検索しても、環境汚染と地球温暖化とか、新型コロナウィルス感染症のパンデミックとか、ロシア軍のウクライナ侵攻とか、気が滅入るような憂鬱なニュースばかりが目につきます。ですから今回はちょっと気分を変えてホッコリするような縁起の良い場所を２ヶ所、仕事で通りかかることのあった機会に訪れてみました。

　まずは川崎市麻生区の�I亀松公園、小田急線の新百合ヶ丘駅から昭和音大の校舎に沿って南へ約20分ほど歩いた住宅地にある、小さいけれど緑が多く、よく整備された公園です。説明板によると、かつては鎌倉街道の尾根道だったこの地に、天を衝くような松と、地を這うような松があり、共に樹齢200年ほどの見事な名松だったそうです。

　江戸時代末期、幕府代官の江川太郎左衛門がこの松を気に入り、�I松と亀松、２本合わせて�I亀松と名付けたが、残念ながら昭和16年の台風で枯れてしまった、これらの松を偲んで�I亀松公園と名付けられたそうで、現在では公園一角に二代目とも言える２本の松が植えられて、未来の大樹を目指して生育中です。後ろの背の高いのが「�I松」、手前の低いのが「亀松」ですね。この２本が樹齢200年を越える名木に成長したら見事な枝振りになっていることでしょう。もし200年後の世に生まれ変わっていたら、ぜひ二代目�I亀松の勇姿を見に来たいものです。

　植物ならば松竹梅、鉱物ならば金と銀、それらに並ぶ動物が�Iと亀、日本人は昔からこれらをめでたい物として珍重してきました。�I亀松はめでたい動物の�Iと亀が、めでたい植物の松の形をとっているからチョーめでたいわけですね。�Iは千年・亀は万年と言われるように鶴も亀も長寿の象徴ですが、まさか本当に1000年も10000年も生きるわけではありません。寿命はタンチョウヅルで平均20〜30年、ミドリガメで平均30〜40年だそうですが、桁違いの長寿と信じられたのは古代中国の神仙思想によるものらしい。

　何はともあれ、鳥類と爬虫類の垣根を越え、共に長寿の象徴としてペアにされることの多い鶴と亀、私は先日思わぬところに�Iと亀が並んでいることに驚きました。上の写真右側は木々も色づいてきた鎌倉の鶴岡八幡宮、特に今年はNHK大河ドラマで『鎌倉殿の13人』を放映しており、今さら知らない人も少ないと思われる鎌倉の主要な観光地ですが、横須賀線で東京方面から行くと１つ先に当たる逗子の駅前には、何と亀岡八幡宮（写真左側）という神社があるのです。私も若い頃から鎌倉は何度も訪れていましたし、逗子にもたまに足を伸ばすこともあった。しかし鶴岡八幡宮がある隣の駅前に亀岡八幡宮があったことは今回初めて知りました。

　神社ですから本殿前に狛犬が番をしているのですが、さらにその奥、賽銭箱前の左右には狛犬ならぬ狛亀が…！亀岡八幡宮という名前の神社は仙台市や栃木県益子町や東京都新宿などにもあるようですが、逗子の亀岡八幡宮は応神天皇を御祭神として祀っており、創建年代は不明でも、江戸時代の1841年に完成した新編相模国風土記稿には延命寺という寺の管理下にあったことが記録されているそうです。

　歴史的、文献的に名の通った錚々たる神社というわけではありませんが、その名前、まるで亀の甲のようななだらかな丘の上にあったということで、お隣さんの鶴岡八幡宮に対して亀岡八幡宮と呼ばれるようになったという記載があることが面白い。真偽のほどは不明ですが、横須賀線の鎌倉と逗子という隣り合った駅に長寿を象徴する動物の名前を持った神社が並んでいるのですから、そっち方面へ仕事に行く折には電車の中でちょっと笑ってしまいそう…。

　�Iや亀が出てくるお話にはツルの恩返し（�I女房）とか、浦島太郎とかありますが、�Iにも亀にも哺乳類の動物に一杯食わせた物語がありますね。皆さんすぐに思い出せましたか（笑）。一つは『ウサギとカメ』のお話。
　もしもしカメよ、カメさんよ
　世界のうちでお前ほど
　歩みののろい者はない
　どうしてそんなに遅いのか
とウサギにバカにされたカメ、逆に向こうの山の麓まで徒競走勝負を挑み、油断したウサギが途中で昼寝をしているのを横目に、見事にウサギに勝ってギャフンと言わせたという話でしたね。

　しかしカメは途中でウサギが油断して手を抜くことを予見していたのかという疑問は今も残ります。ウサギが途中で昼寝などせず、何事にも真剣に勝負する気があったならば、万が一にもカメに勝ち目はない。まあ、この話はカメが偉かったということではなく、力のある者でも弱い相手を見くびっちゃいけないよという教訓話なのでしょう…ということで次のお話。

　イソップの寓話に、ツルが見事にキツネに仕返しをする話があります。ある日キツネがツルを自宅に呼んで食事をした時のこと、平たい皿にスープを盛ったがツルは嘴が皿に当たるだけでスープを飲めない、キツネは舌を使ってスープをきれいに飲んで満足顔。口惜しい思いをさせられたツルは別の日、先日のお礼といってキツネを自宅に呼び、細長い壺に肉を入れた料理を出した、ツルは長い嘴で壺の底の肉を美味そうに食べたが、キツネの舌は肉に届かない…。

　さてイソップは何を教訓にしたかったんだか。ツルも大人げないと思います。平たい皿じゃスープが飲めないから、容器を取り換えてくれとキツネに頼めば良かっただけの話じゃないですか。どうせウサギは油断してスキを見せるに決まってると決めつけ、勝負というより策略で勝ったカメも同じ、長生きを象徴する動物だったら、もっと人間関係（動物関係）がギクシャクしないような人生（�I生や亀生）の知恵を発揮して貰いたかったですね（笑）。