横須賀軍港巡り
私も定年退職後は老人介護施設や障害者施設の健診とか、職場健診や市民健診などで首都圏各地を訪れていますが、たまたまJR横須賀線や京浜急行などで三浦半島方面へ出かけた折には、帰り道に横須賀で途中下車してJR駅前のヴェルニー公園(臨海公園)で海上自衛隊やアメリカ海軍の艦船にご挨拶することが多い。
あまりご存知でない方もいらっしゃるでしょうが、海上自衛隊の艦船は港に停泊中でも日中は艦尾の旗竿に旭日旗(自衛艦旗、いわゆる軍艦旗)を掲げています。これを日没時刻(季節によって異なる)になると降下させますが、旗を降ろす時に「自衛艦旗降下」を告げるラッパの吹奏があるのですね。港内の各艦から哀愁を感じさせるラッパの音色が、夕闇迫る海面を渡って流れてくるのに耳を傾けていると、護衛艦乗り組みに憧れていた高校時代の自分を思い出してしまいます。
時刻がまだ午後早い時は、軍港巡りの遊覧船に乗るのも楽しみのひとつ。TRYANGLE(トライアングル)
という会社が1日5便ほど運航しているクルーズで、約45分ほどかけて横須賀港内の日米の艦船や施設などを案内してくれます。ちなみに記念艦三笠の方へは行かない。
使用する遊覧船はSea Friend 7 という総トン数77トン、全長26.2メートルの船で、上の写真のように白と黒のツートンカラーの船体に赤いファンネル(煙突)が印象的ですね。背後の桟橋に横付けしているのは現在海上自衛隊最大の護衛艦いずもです。
ところでこの写真ではSea Friend 7 の船室の屋根には人影が見えませんが、ここにもベンチが並べられていて、好天の休日などは客が鈴なりに乗っていることもあります。こんなにガラガラの日は滅多にない。つまりこの日は平日で、しかも日本近海に低気圧が接近している荒天だったわけです。
この横須賀軍港巡りの遊覧船は、陸上からでは絶対に見られない景色を堪能させてくれますし、ガイドさんの説明は一般の方々にも分かりやすいと思いますから、よほど海や船に興味が無い人とか、万一の時に絶対的なカナヅチで心配だという人以外は、ぜひ一度はお乗りになることをお勧めします。
しかしこの写真の日は荒天、よほどの艦船マニアでなければ、またの機会を楽しみにするのが賢明な選択でしょうが、もちろん私は乗りました(笑)。しかも一つ前の時間帯のクルーズで人影も無かった船室屋根の屋上席。私の他には誰もいないと思いきや、やはりマニアの人はいるものです。私は数人のマニアと一緒に、風雨と波浪に弄ばれながらしっかりと港内の艦船に目を凝らし、カメラのレンズに降りかかる水滴を拭き取りながら懸命に撮影していました。
私も最近は健診で三浦半島方面に出かけるたびに横須賀で途中下車して、もう10回以上も横須賀軍港巡りのクルーズは乗っていますから、本当はわざわざ荒天を冒してまでこの日に乗らなくても良かったんです。早春の肌寒い日のことだったし、もし万一の事態になったらえらい目に遭うところでした。しかしこの日はどうしても見たい艦が停泊していたのですね。
遊覧船からは陸上から望めないアングルでさまざまな艦船を見ることができます。例えば上の写真左側、横須賀を母港としているアメリカの原子力空母ロナルド・レーガン(満載排水量10万トン以上、全長333メートル)ですが、ヴェルニー公園対岸のアメリカ海軍施設の陸地に隠れるようにして停泊してますから、入出港時を除けば遊覧船からしかその姿を見ることはできない。
まあ、でも私はこれまでにもう何度もこの巨大な空母を目撃してますから、何も低気圧が接近する荒天時に遊覧船に乗ることもなかった。私がこの日、本当に見たかった艦は写真右側、海上自衛隊の新鋭艦くまのだったのです。多機能護衛艦(FFM)という新しい艦種、もがみ型の2番艦で、あまり艦船に詳しくない方でもお気付きになるかも知れませんが、船体が妙にカクカクして傾斜のついた平面で構成されており、さらにこれも平面で構成されたピラミッド状の1本マストのてっぺんに角のような構造物が乗っかっている、従来の軍艦とか護衛艦のイメージを一新した奇怪とも言える艦容なのですね。
プラモデルで作ってもあまり面白みのない艦型ですが(笑)、これは電磁波の反射面積を極力小さくして、敵のレーダーに映りにくくするためのもので、いわゆるステルス艦と呼ぶこともあるようです。欧米海軍でもボチボチ採用されてきた“ステルス艦”の1番艦もがみが横須賀に入港したというニュースは『世界の艦船』という雑誌の巻頭写真で知っており、2番艦くまのもこの時はまさに就役直後(2022年3月)、この“ステルス艦”が横須賀に停泊していることはこの日の朝に知りました。
仕事に行くため久里浜行きの横須賀線電車の窓から、“ステルス艦”の特異な1本マストが見えた時は思わず小躍りしましたね。電車が大船方面から横須賀駅に入る直前に、護衛艦が並んで停泊しているのが一瞬だけ見える場所があるのです。お馴染みの護衛艦や自衛艦艇のマストが林立する中に、まさにユニコーンの角のような1本マストが見えた、これはもう仕事が終わったら絶対に横須賀で途中下車して軍港巡りの遊覧船だ、低気圧の風雨が何だ、波浪が何だ…(笑)。
因果な趣味ですね。私は撮り鉄マニアでもあるんですが、艦船を撮影する時の方が興奮します。まあ、あんまり危険な場所や立入禁止区域には近づかず、他人様に迷惑を掛けないように心掛けながら、せいぜい定年後の趣味として楽しんでいこうと思っております、ハイ…。